不動産の引渡し猶予とは?期間やリスクについて解説

不動産取引では、売買代金全額の支払いと引き換えに物件の引渡しを行うことが原則です。しかし、状況によっては「引渡し猶予」を取引の条件とする場合があります。
引渡し猶予とは、買主が売買代金全額を支払った後も一定期間、文字通り売主から買主への物件引渡しを猶予する取り決めのことです。

引渡し猶予が条件とされる取引は特段多いわけではありません。しかし、売主としてやむを得ず引渡し猶予を条件とする場合、あるいは買主として気に入った物件の購入条件に引渡し猶予が付されている場合、通常の取引よりも手続きが複雑となるため、そのリスクも含めてしっかり理解しておくことが重要です。

本記事の主な内容は以下のとおりです。

  • 「引渡し猶予」では、買主の売買代金支払い後の一定期間、売主からの物件引渡しが猶予される
  • 引渡し猶予とリースバックは混同されるが意味が異なる
  • 引渡し猶予は「売却先行」の取引で用いられる
  • 買主としては大きなリスクを負うことになる

不動産取引は様々なケースが想定されます。その中でも「売主が買い替え(住み替え)をする場合」は、本記事のテーマである引渡し猶予が発生する可能性が高いと言えます。
今回は、引渡し猶予について一般的なプロセスや期間、リスクについて詳しく解説していきます。

引渡し猶予とは?

「引渡し猶予」とは、買主が売買代金全額を支払った後の一定期間、売主から買主への物件引渡しを猶予する取り決めのことを言います。
不動産取引では、売買代金全額の支払いと引き換えに物件の引渡しを行うことが原則とされています。しかし、売主が住宅の買い替えをする場合など、売買条件として引渡し猶予を設ける場合があります。

なお、類似する用語として「リースバック」と呼ばれる取引が存在します。リースバックとは、売主から買主への物件引き渡し後、賃料の支払いを条件に、売主が一定期間入居する取り決めです。しばしば引渡し猶予とリースバックは混同されることがありますが、賃料が発生する「リースバック」と、単に引渡しを猶予する「引渡し猶予」では意味が異なることを覚えておくと良いでしょう。

引渡し猶予の仕組み

引渡し猶予は「支払いと引渡しのタイミングがズレる」という以外、外形的には一般的な取引と大きな違いは無いものと思われがちです。
しかし、引渡し猶予を実現するためには、特に売主の手続は重要で、タイミングが合わなければ売買自体が成立しない可能性があるためしっかりとした準備が必要です。

引渡し猶予は売却先行の場合に用いられる

住宅を買い替える際は2つの方法が考えられます。

  • 先に住み替え先を購入する方法(購入先行)
  • 先に所有物件を売却する方法(売却先行)

購入先行の場合、売却を行う前に住み替え先を確保します。売却における手続きや期間の制約が無いため、納得いくまでじっくり売却活動を行うことができます。また、物件引渡し前に買い替え先へ引っ越していれば引渡し猶予を売却の条件とする必要もありません。

ただし、購入先行を行うためには住宅ローンを完済しておく必要があります。売却において所有権を買主へ移すためには、住宅ローンによる抵当権設定の抹消が必須であるため、物件引き渡しまでに抹消の手立てが無い場合、購入先行を選択することは出来ません。

一方、売却先行は買い替え先の物件を探しつつ、売却活動も同時に行う方法です。
売却活動と物件探しはどちらが先に開始されても問題ありませんが、買い替え先の代金支払いよりも売却による代金受領の方が必ず先行するため一般的に「売却先行」と呼ばれています。

売主は売却による売買契約を行った後、速やかに買い替え先を購入するための売買契約を締結します。
そして、その後売却の決済をして買主から売却代金を受け取ります。本来はこの時点で買主へ物件を引き渡す必要がありますが、売主は買い替え先の決済による物件引渡しを受けていないため、この時点では退去が完了していません。

売主は売却代金により住宅ローンを完済し、抵当権を抹消します。そして買い替え先のための新たな住宅ローンを実行し、決済をして物件引渡しを受けます。

つまり、売却代金の受領から買い替え先の代金支払い・退去にはタイムラグが発生してしまいます。このタイムラグを埋めるために、引渡し猶予が売却条件となる場合があるのです。

引渡し猶予の期間

引渡し猶予は、1週間~10日程度で設定されることが一般的です。
猶予期間が短すぎれば、売主の買い換えや退去手続きが間に合わなくなる可能性があり、一方で長すぎる場合は買主にとって取引上のリスクが増加することとなります。

当然、事情によっては短くすること、長くすることは当事者間で自由に決めることが可能です。この1週間~10日程度という日数は、あくまで「これまでの取引実績によって収れんされた期間」と認識しておくと良いでしょう。

引渡し猶予のリスク

引渡し猶予は買主におけるリスクが大きいと言えます。
買い替えにより引渡し猶予が条件となる取引の場合、同時に「買い替え特約」が付されることが一般的です。
買い替え特約とは、売主による買い替え先の購入契約が何等かの事情によって解除された場合、それに伴って売却の契約も解除されるという特約です。

この場合、売主に特段の責任が無ければ、解除による売主へのペナルティは発生しないとするのが通例です。したがって、買主はそれまでの時間的・金銭的コストに関わらず、原則的には何ら売主への請求ができないのです。
引渡し猶予がある場合、買主として大きなリスクがあることは認識しておく必要があります。通常の売買契約書よりも特約条項が記載内容が多くなるため、仲介会社にはそれらの意味やリスクがどの様なものなのか、アドバイスや意見をしっかり受けた上で購入判断することが重要です。

売買契約書など、不動産購入時に必要な書類についてはこちらの記事で解説しています。

おわりに:引渡し猶予が条件となる場合、買主はしっかりとしたリスク理解が必要

売主が買い替え(住み替え)を前提とした売却である場合、引渡し猶予が条件とされることがあります。
引渡し猶予とは、買主が売買代金全額を支払った後の一定期間、売主から買主への物件引渡しを猶予する取り決めのことを言います。

また、引渡し猶予に加え「買い替え特約」が付されることが一般的で、もし売主による買い替え先の契約が解除された場合は、それに伴って売却の契約も解除されることとなるため、買主としては大きなリスクを負うことになります。

したがって、買主として引渡し猶予が条件の物件を検討する際は、それらリスクや条項内容をしっかり理解し、購入判断をすることが重要です。

この記事を監修した人

スターフォレスト代表取締役増田浩次(ますだこうじ)

埼玉県出身。親族の大半が不動産業界を営んでいたことから、自身も不動産業界へ入って30年近くが経ちます。モットーは、お客さまに喜んでいただけるような的確な提案をすること。お客さまには物件の良いところも悪いところもすべてお話しています。
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、損保募集人資格を所持しておりますので、住宅ローンや資金計画のご相談・アドバイスもお任せください。

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